2012-08-11

龍田


あらすじ
経聖の一行が南都より龍田川に至ると、巫女が現れて渡河を阻止し、古歌を引いて許しを乞う聖(ヒジリ)に藤原家隆の「紅葉の龍田川も氷の川も渡るべからざる」の歌を引き思いとどまらせる。そして、聖を明神へ案内して御神木の紅葉を教え、夕暮れになって宮廻りをするうちに、巫女は龍田姫と明かし社壇の中に消える。
所の者が龍田明神の謂れを語り、通夜をする聖たちの前に、龍田姫の神霊が姿を見せる。神霊は秋を司る姫の紅葉をめでる心を示し、夜神楽を奏し、乱れ飛ぶ紅葉の中で天に上って行く。

次第  ワキとワキツレ
教への道もあきつく(開き・秋津国)に  教への道も秋津国
数ある法(ノリ)を納めん

「教えへの道が開く」は仏法宣教の道が開かれていること。
「秋津国」は謡曲「養老」などでも関の戸などが開くことと掛詞で用いられる。

(ひとこと)
「秋津国」の秋津はトンボの意味。古代からこの国では秋になると稲が実りトンボが飛び交っていたのでしょう。秋を司る女神が主人公の曲にふさわしい次第。
ワキは「六十余州の霊場に法華経を納める聖」、「和光同塵は結縁の始め」と本人が述べるように謡曲の僧は「仏が光を和らげて神と現れた」という解釈のもとに参拝しています。

結末  地謡
神風松風  吹き乱れ  吹き乱れ
もみぢ葉散り飛ぶ  木綿(ユウ)付け鳥の
御禊(ミソギ)も幣(スサ)も  ひるがへる小忌衣(オミゴロモ)
謹上再拝  謹上再拝と  山河草木  国土治まり
神は上(アガ)らせ  給ひけり

「木綿付け鳥」は鶏の異称。龍田の神鳥。
「小忌衣」は神事用の青摺りの衣。謡曲では神楽などの慣用語として使われる。

(ひとこと)
金春禅竹の作品は奥が深く読み応えがあるのですが、詞章が濃すぎるように思います。この結末もちょっとしつこいし、しかも女神らしくない。
せっかく「薄氷の下に残る紅葉」を讃美しているというのに、慣用句を並べただけという感じです。
次第の詞章の「秋津国」に応えて、「国土治まり」となっているのですね。