2012-04-28

江口



あらすじ 
旅僧が江口の里に来て西行の古歌を懐かしんでいると、里の女が現れ、西行との贈答歌の真意を説く。そして自分は江口の君の幽霊だと告げて姿を消す。里の男が旅僧に、遊女が普賢菩薩となって現れる奇瑞を語り供養を勧めると、旅僧の弔いに江口の君が二人の遊女を伴い舟に乗って姿を見せる。江口の君は遊女の罪業と世の無常を述べた後に舞を舞い、執着を捨てれば迷いはないのだと説き、身は普賢菩薩に舟は白象となって西の空へ消えて行く。


次第  ワキとワキツレ 
月は昔の友ならば  月は昔の友ならば
世の外(ホカ)いづくならまし

月が在俗時代からの友であるからには 
出家の現在 世俗と断絶した世界とは いったいどこにあるのだ

(一言)
「月は昔の友」は西行の和歌「夜もすがら月こそ袖に宿りけれ昔の秋を思ひ出づれば」が元です。
「川逍遥」の華やかさ艶やかさにうっとりの曲ですが、「悟りとは何か」の問題は冒頭から示され、結末がその答えとなっています。

結末
思へば仮りの宿  思へば仮りの宿
心留むなと人をだに  いましめしわれなり
これまでなりや帰るとて  すなはち普賢 
菩薩と現はれ  舟は白象となりつつ
光とともに白妙の  白雲にうち乗りて
西の空に行き給ふ
ありがたくぞ覚ゆる  ありがくこそは覚ゆれ

よくよく思えば この世は仮の宿
この仮の宿に心を留めるなど 人にさえも いさめた私である
もはやこれまでである 帰ると言って 立つやいなや
舟は白象と変じ 白一色の光の中に 白雲に乗って
西方浄土の空へ行かれる そのお姿は
ありがたく思われる まことにありがたく思われる

(一言)
江口の君は「世捨人なら遊女宿などに泊まりなさるな」と出家である西行の身を案じたのです。
自分の境涯と罪業を徹底的に認めたからこそ江口の君は菩薩に転じました。それが悟りです。

「舟は白象となりつつ」の「つつ」がいい。変化の様子がCG映像を見るようです。
白象、白妙、白雲と白の重なりは浄化のイメージ。ここに至るまでには、紅、黄、翠の文字が目につきます。
「川舟を 留めて逢瀬の波枕」と謡われる舟は、遊女たちの仕事場。

娼婦に聖性や神性を付与することで、男の何が救われるのでしょう。