2013-01-26

遊行柳


あらすじ
諸国遊行の上人が一遍上人の教えを広めようと奥州へ向かう。白河の関を越えた所で老人に呼び止められ、老人は古道にある名木の柳に案内するが、上人の十念を受けると、古塚に身を寄せる様に消える。不思議に思い上人が念仏を唱てまどろんでいると、柳の精が白髪の老人の姿で現れ、草木まで成仏できる念仏の功徳を讃え、柳の故事を語り、報謝の舞を見せて消え失せる。

次第  ワキとワキツレ
帰るさ知らぬ旅衣  帰るさ知らぬ旅衣
(ノリ)に心や急ぐらん

帰ることも忘れてしまった遊行の旅ながら、仏法をひろめるためには心が急がれることだ。
衣と法は縁語。

(ひとこと)
芭蕉の「奥のほそ道」にも多大な影響を与えた遊行柳の曲。次第が「旅」で始まっているのも何か縁かもしれない。旅と衣は縁語。

結末  地謡
今年ばかりの  風や厭はんと
漂ふ足もとも  よろよろ弱々と
倒れ伏し柳  仮寝の床(トコ)
草の枕の  一夜の契りも  
他生の縁ある  上人の御法(ミノリ)
西吹く秋の  風うち払ひ
露も木の葉も  散りぢりに
露も木の葉も  散りぢりになり果てて
残る朽木と  なりにけり

現代語訳は省略します。
註によれば、別れの際には柳の枝をわがねて旅立つ人に贈るのが習わしで、後ジテの登場歌の漢詩に呼応とあります。「伏し柳」は歌語。
また、「今年ばかり・・」は、西行桜の「年経り増さる朽木桜 今年ばかりの花をだに」の変形。
「一夜の契りも 他生の縁ある」は、小督の「一樹の宿り 一河の流を汲むことも 皆これ他生の縁ぞかし」の変形。
「西吹く風の秋」は、当麻の「ただ一声の誘はんや 西吹く秋の風ならん」をふまえるそうです。
オリジナリティーに欠ける結末の詞章ですが、老いの寂しさまでがひしひしと伝わります。西行が詠んだ柳の情景と比べれば尚更です。もちろんそれが作者のねらいでしょうが。

「道の辺に清水流るる柳陰 暫しとてこそ立ち止まりけれ」
若々しい緑の柳の葉ずれの音まで聞こえてきそうな歌です。