2013-01-10

八島


あらすじ
旅僧が従僧と共に讃岐の八島の浦に着き塩屋で待っていると、主の漁翁と漁夫が帰ってくる。僧は一夜の宿を乞い、漁翁は僧らが都の者だと知り懐かしさに涙する。僧の求めで漁翁は源平合戦の様子(義経の勇士ぶり、景清と三保谷の錣引、嗣信と菊王の最期など)を語る。僧の不審に漁翁は義経の霊だとほのめかして消える。所の者が合戦のことを語り、僧が眠りにつくと、甲冑姿の義経の霊が現れ「弓流し」の様子を再現、修羅道での責苦の戦い、また激戦の様子を語るが、春の夜明けとともに消え失せる。

次第  ワキとワキツレ
月も南の海原や  月も南の海原や
八島の浦を尋ねん

月も南の海原の上を行く 月も南の空を行く
われらも南海道の 八島の浦を尋ねよう

(ひとこと)
合戦の無常がテーマの曲でありながらも、冒頭から「月、南、海原」という壮大な風景が描かれて明るい開けた感じがします。
結末の「海、山、空」を舞台とする修羅の世界に呼応する次第です。

結末  地謡
水や空  空行くもまた雲の波の
うち(打・討)合い刺し違ふる  舟戦の駆け引き
浮き沈むとせしほどに  春の夜の波より明けて
敵と見えしはむれゐる(牟礼・群居)鷗  
鬨の声と聞こえしは 浦風なりけり高松の
浦風なりけり高松の  朝嵐とぞなりにける

水か空か区別ができず 空を行くのも波かと見える雲
内ち合ったり刺し違えたりする 舟戦の進退
波に浮きつ沈みつしているうちに 春の夜が波の上から明るくなり
敵と見えていたのは群がっている鷗
鬨の声と聞こえていたのは 実は浦吹く風であった
高い松を浦風であった高松の 朝の嵐となったのであった

牟礼・高松は地名
水や空の本歌は「水や空空や水とも見え分かず通ひて澄める秋の夜の月」

(ひとこと)
舞台では義経の亡霊が激しい戦いの所作をします。
夢幻能ですから、僧の夢が覚めれば夜明けとともに義経の亡霊は消えるのですが、そこが曖昧にぼかされています。まさに「春の夜の夢」。
「波より明けて」は、ひたひたと寄せる白い波頭が少しづつ輝きだす美しさ。白い鷗が敵になぞられていますが、平氏は「赤」ですから少しヘンですね。