2012-07-05

殺生石


あらすじ
那須野原で玄翁と供が大石の上に鳥が落ちるのに驚く。そこへ女が現れ玉藻の前の化した殺生石の恐ろしさを説く。女は玉藻の前の行状と安部の泰成の調伏を語り、殺生石の石魂と名のり石に隠れる。供の能力の語りの後で、玄翁が石に向い仏事をなすと、大石は二つ割れ、石魂が狐の形で現れ自分の転生を物語る。三国の仏法王法に敵対し勅命により三浦の介と上総の介に射殺されたこと、執心が殺生石になったことを語り、玄翁の法力で回心を誓って消え失せた。

次第  ワキ
心を誘ふ雲水(クモミズ)の  心を誘ふ雲水の
(浮・憂)き世の旅に出(イ)でうよ


浮雲流水に心を誘われ、所定めぬ憂き世の旅に出かけよう。
「雲水」は各地の禅匠を歴訪する修行僧)に言いかけ、旅僧の意。
名のりの後の「上げ歌」にも「雲水の身はいづくとも定めなき」とあります。

(ひとこと)
玉藻の前、玄翁、安部康成の話や三国伝来の狐や犬追物の起こり等がぎっしり詰まっている割には次第は飄々として軽やか。
僧の旅路を見守る空の雲や川の流れが眼に浮かびます。なつかしい日本の風景ですね。
「出でうよ」はイジョオよと読みます。やさしい音(オン)で読み手は物語に誘われていきます。

結末
・・
なすの(為・那須)の原の  露と消えてもなほ執心は
この野に残つて  殺生石となつて
人を取ること多年なれども  今遭ひがたき御法(ミノリ)を受けて
この後悪事を致すこと  あるべからずとおん僧に
約束堅き石となつて  約束堅き石となつて
鬼神の姿は失せにけり


「人を取る」とは、人の命を取ること。
「遭ひがたき御法」は慣用的な表現。
「おん僧」の玄翁は実在の高僧で、殺生石を砕いた故事により鉄の槌の名で有名。

(ひとこと)
謡曲の「鬼」は哀しいです。どんなに恐ろしげで大暴れをしても神仏の前で回心してシュンとしてしまうのですから。
妖狐の執心が「この野に残つて」に私は注目します。「地霊」とお能の関係は深いと思うのです。

説話の発端は、硫黄ガスで鳥獣が死ぬ現象でしょう。日本人は草木そして石にも命があると考えて自然と付き合ってきたのですね。
舞台の所作はテンポが速く劇画のようだとか。詞章は説話を合成したため長々と「語り」と漢語が多く、「殺生石」は観た方がずっと楽しそうです。