2012-06-16

誓願寺


あらすじ
一遍上人が熊野参籠で霊夢を蒙り、六十万人決定往生の札を弘めようと誓願寺に至る。そこへ女が現れ、札の意味を尋ねて称名念仏を讃嘆し、寺額を「南無阿弥陀仏」の六字名号と掛け替えるように頼み、自分は和泉式部の霊と告げて石塔に消える。上人が額を掛けると奇瑞が現れ念仏を唱えると和泉式部(歌舞の菩薩)が登場し、極楽世界となった誓願寺を称えて、寺の謂れを語る。そして式部の霊が舞を舞うと、菩薩聖衆も六字名号の額を礼拝するのだった。

次第  ワキとワキツレ
教への道もひとこゑ(一つ・一声)の  教への道もひと声の
御法(ミノリ)を四方に弘めん


仏の教えはただ一つ、南無阿弥陀仏の一声だという念仏の法を世の中に弘めよう。
「当麻」の次第も、「教・法・道」と続ける。

(ひとこと)
550年も前に糺河原勧進猿楽で上演されたこの曲はきっと満場を熱狂させたと思います。やさしい仏教の教え、美しい菩薩の歓びの舞。舞台を観ること自体が極楽だったはず。
「教法道」の順番もきっと意味があるのでしょう。「六字」がテーマですから次第にも数字の「一と四」が出てきます。
おなじ和泉式部でも王朝の雅さに満ちた「東北(軒端梅)」は「法華経讃嘆」ですから彼女の人気のほどが伺えますね。


結末  シテと地謡
げにも妙えなる  称名の数かず  空に響くは  音楽の声
異香薫じて  花降る雪の  袖を返すや  返すがへすも
(タット)き上人の  利益かなと  菩薩聖衆は  面々に
御堂に打てる  六字の額を  みな一同に  礼し給ふは
あらたなりける  奇瑞かな


目の前に広がる極楽世界。袖を返すは「雪の袖」をふまえた舞の様子。

(ひとこと)
次第に「一声」という詞があり、結末にも「音楽の声」。
「羽衣」でも極楽について「虚空に花降り音楽聞こえ、霊香四方に薫ず」と描写されています。この曲では「霊香」でなく「異香」で、インドのお香を想像してよいのでしょう。
「あらたなりける奇瑞」とは、「霊験あらたかでめでたいこと」と解説されています。ハッピーエンドではありますが、礼拝するという行為を考えると、厳粛な気持ちが残ります。≪道行版≫の時はそうは感じなかったのですが。