2012-06-10

俊寛


あらすじ
鬼界島の流人のうち成経と康頼が赦され、赦免使が都を出発する。鬼界島では二人が島に勧請した熊野三社に詣で、一方俊寛は絶望的な境涯を嘆き、二人を迎に出て、酒に見立てた谷水を汲み交す。そこへ赦免使が到着。赦免状には俊寛の名前がなく俊寛は悲嘆にくれる。船出の時が来ると、せめて薩摩の地までと哀願するが許されず、俊寛は一人残され寂しく舟影を見送る。

次第  成経と康頼
神をいはふ(斎・硫黄)が島なれば  神を硫黄が島なれば
願ひもみつ(満・三)の山ならん


平家物語に「島の中には・・硫黄といふ物みちみてり。かるがゆゑに硫黄が島とぞ申しける」。
三つの山とは熊野三社である新宮、本宮、那智のこと。

(ひとこと)
「硫黄が島」という地名で「俊寛」だとすぐにわかる次第です。
掛け言葉も面白く、しかも成経・康頼が赦されたのは俊寛とちがい信仰心があったからという陰のテーマまで暗示しているかようで、短くても次第は重要です。


結末  シテと地謡
・・
頼むぞよ頼もしくて
待てよ待てよと言ふ声も  姿も次第に遠ざかる沖つ波の
(カス)かなる声絶えて  舟影も人影も
消えて見えずなりにけり  跡消えて見えずなりにけり


帰洛を頼もしく待てとの声もやがて幽かになり、沖へ遠ざかるが、その声に幽かな頼みを持ち続けよう。「幽かなる」は上下に掛かる。

(ひとこと)
歌舞伎などでも有名なラストシーンです。この曲に「舞」のないことが余計に俊寛の絶望を際立たせているような気がします。
まだ波の向こうから聞こえていた声が細く小さくなり、人の姿も船も豆粒のように小さくなって最後は点となって消えてしまう・・。船上の人を見送る時はまさにこうです。
船が去って行く波の「跡」さえも消えて見えないと、作者は念を押しながら、これから救いようのない俊寛の孤独の世界が始まることを告げています。