日向国の桜子は人商人に身を売り、代金と手紙を母に届けさせる。悲しみに心を乱した母が子を尋ねる旅に出て三年、桜子は常陸国の寺に弟子入りしていた。春の盛り、住職が桜子らを連れて花の名所「桜川」に出かけると、そこには物狂いとなった母がいた。母は川面に散る桜を網で掬い、子への想いを募らせる。やがて母子は対面し親子は連れ立って帰り、母も出家し仏の恵みを得た。
次第 ワキとワキツレ
頃待ち得たる桜狩り 頃待ち得たる桜狩り
山路の春に急がん
(ひとこと)
「西行桜」と全く同じ次第で、どちらも世阿弥作です。
川面に「散る桜」に行方知れずの我が子を重ね、それを網で掬うという美しいイメージに満ちた曲ですが、似たような桜の詞章が多すぎる気がします。
次第も、僧侶師弟一行の言葉としてはどうも・・。
キリ 地謡
かくて伴ひ立ち帰り かくて伴ひ立ち帰り
母をも助け様変へて 仏果の縁となりにけり
二世(ニセ)安楽の縁深き
親子の道のありがたき 親子の道ぞありがたき
様変へて・・出家すること
仏果の縁・・仏法を修行して悟りを得ることの機縁
二世・・現世と来世 親子の道は一世の縁であることに対置
(ひとこと)
狭義の意味での「キリ」は後日談ですが、最後がちょっと押しつけがましいですね。
哀れな母に対し、桜子は、手紙の中でも「おん様をも変へ給ふべし」と強く出家を望んでいます。
住職と「師弟の契約」をするのですから桜子(サクラゴ)は男子でしょう。貧しさ故に母の方が先に「花」を散らしていたのです。それを許せなかった男の子。