2012-04-23
井筒
あらすじ
諸国一見の旅僧が奈良から初瀬への途中、在原寺を訪れ、業平夫妻の跡を弔っていると里の女が現れる。 女は僧の問いに答え業平と有常の娘との純愛について語り、自分が井筒の女と呼ばれた有常の娘であると名乗り、井筒の陰に消える。 里の男に勧められ僧は回向し、夢に見ることを期待して仮寝する。すると、業平の形見をまとった有常の娘の霊が現れ、恋慕の舞を舞い、井筒の水に自分の姿を映して業平の面影を懐かしむ。 だが夜明けとともに僧の夢は覚めるのだ。
次第 シテ
暁ごとの閼伽(アカ)の水 暁ごとの閼伽の水
月も心や澄ますらん
暁ごとに仏の前に供える水 暁ごとに水を汲んで仏に供えると
水に澄む月までも 私の心を清らかに澄ませてくれることだ
(一言)
「アカツキ」と「アカノミズ」が頭韻。続くサシの詞章に「ものの淋しき秋の夜の」があり「アカ、アキ」と続いています。「井筒」は月と水の曲。
秋の夜の暗闇の中で井筒から発光する月光が女の慕情をさらけだします。純愛ならばどこまでも澄み渡り、それは月そのものと似ています。
結末 シテと地謡
見ればなつかしや われながらなつかしや
亡夫はく霊の姿は しぼめる花の 色無うて匂ひ
残りてありはら(有・在原)の 寺の鐘もほのぼのと
明くれば古寺の 松風や芭蕉葉の
夢も破れて覚めにけり 夢は破れて覚めにけり
じつは私の姿なのになつかしいこと
このように業平と一体となった女の幽霊の姿は
しぼんでいる花が 色あせても匂いだけは残っている様子とおなじで
その場にいたが 在原の寺の鐘も鳴り ほのぼのと
夜が明けると 古寺には 吹く風や芭蕉の葉の音が残るのみで
その姿は消え 夢も破れて覚めてしまった 僧の夢は覚め夜が明けたのだ
(一言)
「しぼめる花の・・・匂い残りて」は、業平の歌を評した「古今集仮名序」の詞です。
月がキーワードとされる曲ですが結末は「音」が主役。夜明けを告げる鐘の音で、僧も私たちも目覚めます。
夜は「ほのぼのと」明けるので、まだ頭は朦朧。そこへ芭蕉葉がバサっと音をたてて破れ。
松風の風と芭蕉葉と夢が縁語。しぼめる「花」のあとは芭蕉「葉」。みな繋がっているのです。
「夢も破れ」を重ねずに「夢は破れ」と変化させる。おろそかにできない助詞の使い方、最高ですね。