2012-04-17
海士
あらすじ
藤原房前(フササキ)大臣は母の追善のため讃岐・志度寺に赴く。海人が現れ、水底の月を見るために梅松布(ミルメ)を刈るよう命ぜられると昔話を始める。ー唐土から贈られた面向不背の玉がこの浦で龍神に奪われ、藤原淡海公がある海人と 契りを交わし、宝珠を取り返えせば生まれた子を世継にすると約束。海人は命がけで竜宮に向かい宝珠を奪い取ったー。語り終えた海人は、自分が房前の母だと名乗り海中に消える。大臣は浦人に 事情を聞き、亡き母の手紙を読み十三回忌の供養をする。すると龍女の 姿で母の霊が現れ、法華経の功徳で成仏したと喜び経文を唱えて舞を舞う。
次第 ワキ・ワキツレ
出づるぞ名残り三日月の 出づるぞ名残りの三日月の
都の西に急がん
これが名残と思いつつ 都を出て 出たかと思うとすぐ
名残惜しくも西に姿を隠す三日月の行く方
都の西のほうに急ぐことにしよう
(一言)
三日月は夕暮に影を見せ、やがて西に姿を隠す。
「月の都」という古典の成語があり、三日月のは都の序、都は奈良です。
次第の「月」が、舞台をずっと照らし続けています。
本文の前半は月の詞章がいっぱい。
「水底の月」「内外の山の月を待ち」「あまみつ(海士・天満)月も」「しばし宿るも月の光」
結末 シテ・地謡
今この経の 徳用にて 今この経の 徳用にて
天龍八部 人与(ヒトヨ)非人 皆遥見彼(カイヨウケンピ)
龍女成仏 さてこそ讃州 志度寺と号し
毎年八講 朝暮の勤行 仏法繁昌の 霊地となるも
この孝養と 承る
(一言)
曲は、奈良の興福寺とも縁のある讃岐の志度寺の縁起をもとに構想されています。
結末は仏法讃美と志度寺の宣伝。しかし当時の人にはとっても有難さと憧れに満たされたフィナーレ。
「この経」とは。
変成男子として南方無垢世界に往き妙法を説くところを、それを天衆・龍衆以下の八部衆(夜叉や阿修羅など)が見て、龍女の成仏を見たと説いた。
曲は、母の深い愛情を描いて秀作です。出自を恥じない息子もえらい。