あらすじ
阿闍梨祐慶と同行の山伏が陸奥に至り、安達が原で宿を借りる。宿の主である女は、自らの境涯を嘆きつつ、糸繰りの技を見せてもてなす。そして夜中に「閨の内を見るな」と言い残し薪を取りに行く。従者が祐慶の制止を聞かず閨を覗き夥しい死骸に驚いて祐慶に報告。一行は女が黒塚の鬼女と知り逃げ出すが、そこへ鬼の姿となった女が山から戻り、違約を責めて襲いかかる。しかし鬼女は祈り伏せらて闇の中へと消えて行く。
次第 ワキとワキツレ
旅の衣は篠懸(スズカケ)の 旅の衣は篠懸の
露けき袖やしをるらん
旅の衣も(山伏)の篠懸の衣、
篠懸を着て旅に出ると、露で濡れた袖は涙で萎れることだ。
(一言)
「安宅」の次第と同文。弁慶らは偽山伏で、こちらは本物です。
しかし一行は強引に宿を借り、女に糸繰りの業を強要し、死骸を見れば恐怖で逃げ出し、最後は力でねじ伏せる。
しかし一行は強引に宿を借り、女に糸繰りの業を強要し、死骸を見れば恐怖で逃げ出し、最後は力でねじ伏せる。
次第に続く自信満々の諸国行脚の謡には、高僧を揶揄する作者の意図が含まれているような。
結末 地謡
今まではさしもげに 今まではしもげに
怒りをなしつる鬼女なるが たちまちに弱り果て
天地に 身を約(ツズ)め眼(マナコ)くらみて
足もとはよろよろと 漂ひ廻る安達が原の黒塚に隠れ住みしも
あさまになりぬ あさましや 恥づかしのわが姿やと
言ふ声はなほ すさましき夜嵐の
音に紛れ失せにけり 夜嵐の音に失せにけり
今まではあれほどまでに、猛々しく振舞っていた鬼女であるが、
たちまちに弱りきり、天地の間に身を縮めて目はくらんで、
足もとはよろよろと、あたりをさまよいめぐり、
あらわになったあさましいこと、恥ずかしいわが姿よ、
と言う声はそれでもなおすさまじく響いて、
ものすごい夜嵐の音にまぎれてしまった。
姿も夜の闇の中にまぎれ見えなくなってしまった。
姿も夜の闇の中にまぎれ見えなくなってしまった。
(一言)
詞章4行目「漂ひ廻る」の廻るは、音が「轍・ワダチ」に似ている「安達・アダチ」に掛かります。
読み所である「糸繰りの謡」の中では、女は生死の世界を廻る苦しさを訴えます。
最後の「漂ひ廻る」苦しさを、せめて読者は受け止めたい。あさましいのは阿闍梨の方ですもの。
人間は心に鬼を住ませて一人前・・なんて、これは私の「鬼」観です。いえ人間観です。
人間は心に鬼を住ませて一人前・・なんて、これは私の「鬼」観です。いえ人間観です。