源頼朝の追及を逃れるため、義経主従12人が山伏姿となり奥州へと下向する。加賀の安宅の関にさしかかった一行は富樫に怪しまれるが、武蔵坊弁慶が東大寺再建の勧進のためと説明し、巻物を勧進帳のごとくに読み上げ通行を許される。だが強力に仕立てた義経が見咎められてしまう。それを弁慶が義経を打ち据える機転をきかせ切り抜ける。関を過ぎて安堵する一行に、富樫が無礼の詫びと言って酒を持参するが、弁慶はなお油断せず、酒席で延年の舞を舞い、一同をうながし陸奥へと下って行く。
次第 シテと立衆
旅の衣は篠懸(スズカケ)の 旅の衣は篠懸の
露けき袖や萎(シオ)るらん
旅の衣は(山伏)の篠懸の衣、篠懸を着て旅に出ると、
露で濡れた袖は涙でしおれることだ。
この次第は「黒塚」「摂待」と同文。山伏が白衣の上に着る麻衣が篠懸ですが、衣の飾りの白いボンボンに似た茸(きのこ)をスズカケダケというそうです。私たちにお馴染みは「鈴懸の小道」(古い!)。
屈強な男どもの謡を受けて、強力のアイが瓢げてみせます。黒澤明の「虎の尾を踏む男達」でいえばエノケン。能の清々しさがよく翻案されたミュージカルでした。
おれが衣は篠懸の おれが衣は篠懸の
破れて事や欠きぬらん
結末 シテと地謡
鳴るは滝の水 鳴るは滝の水
日は照るとも 絶えずとうたり 絶えずとうたり
疾(ト)く疾くたてや たつかゆみ(立・手束弓)の
心許すな 関守の人びと
暇(イトマ)申して さらばよとて
笈(オイ)をおつ取り 肩にうち掛け
虎の尾を踏み毒蛇の口を 逃がれたるここちして
陸奥の国へぞ 下りける
現代語訳は省略します。今様の「鳴るは滝の水」は「翁」にも出てきて、とうたりは水の音。
弁慶は義経の「延年」を祈って舞を舞います。酒は飲んだフリ。
富樫の疑いが晴れていないのを察しながら「お目出度い詞」を謡うのは、勧進帳を読むより難しそうです。