えのきは硬くて、何の役にも立たない木です。硬いから、ねずみさえも歯が立たないからと苦労して蔵を造るとと今度は太陽の光で、たわんで、隙間が開くような蔵で全く役に立たない。そのえのきが高級な松に身を寄せている姿は、感動ものです。泣けます。
山本周五郎の「榎物語」にまで膨らませて読んで頂いたようです。役に立たない「榎」というのに、永井荷風にもある「榎物語」。井上靖の「あすなろ物語」も含め、三作は映画化されていますね。
日本の文芸が花鳥風月に依っていれば、「木」のつく小説が沢山あって当然。ですが、北杜夫の長編「楡家の人々」は、「楡」のもつ西洋近代風なイメージで成功。青山の脳病院の話ですから。
江戸の人は役立たずの「えのき」を、街道沿いの一里塚に植えました。
この木を目当てにしながらの徒歩の旅。今日のような残暑の日には、榎の木蔭に「ああ、ありがたい」と一息ついたことでしょう。
「松」も一里塚の代表的な樹木らしいのですが、適「材」適所ということを思えば、「えのき」に軍配をあげたいな。
板橋宿(英泉)