能舞台の背景には、不変の背景として「老松」がえがかれます。
神木である「影向(ようごう)の松」を象り、「久」の字を裏返し逆さに立てた形の枝ぶりにするという口伝があります。
笛柱側には竹の絵。ともに舞台の後ろの地面から生えている心なので根はかきません。
(能楽入門より)
ところが(昭和)ともなれば、老松ではなく、若松がニョキニョキ出てきます。
堂本印象の「若松」
京都観世会館
堂本の松は溌剌として素晴らしいです。半世紀たっても少しも古びず、会場の雰囲気を明るくしています。能の未来に希望が見えてくるようです。
しかし一つの芸術作品として完成されたものが、舞台の背景にふさわしいかどうか・・。
能舞台の松は、銭湯の壁にかかれていた「富士山」の絵と同じでいいと、私なぞは思うのだけど。
千住博の「老松」
宮城県登米町の「伝統芸能伝承館(森舞台)」
創成期の中世では、能は寺社の境内で上演されていました。背景には必ず松があったでしょう。
千住のえがく(平成)の松は、野外劇の荒々しさや素朴さを象徴するような松です。
シテやワキが松にのまれそうで怖いですが、案外そこが面白いのかもしれない。