2012-05-23

杜若


あらすじ
三河の国八橋、杜若を見入る僧の前に女が現れ、伊勢物語に名高い業平の「唐衣・・」の歌の話をした後、自分の家に案内する。女は初冠をつけ唐衣を着た姿で現れ、杜若の精であると名のり、業平の立場で二条の后と女人遍歴を語り、このことは歌舞の菩薩であり陰陽の神でもある業平の衆生済度のわざであったと説く。杜若の精は舞を舞い、「草木成仏・女人成仏」渾然一体の夜明けの中に消えていく。


次第  地謡
はるばるき(来・着)ぬる唐衣  はるばるきぬる唐衣
着つつや舞を奏づらん


はるばると旅をして来た姿、はるばると来た姿なのだ 唐衣もを
着て舞を舞うことである

(ひとこと)
謡曲の構成について知識がなく、冒頭にない次第を見落とすところ。しかもクセの終わりにも同じ詞章があるのでびっくり。
音楽に合わせて舞を舞うことを今でも「奏でる」というようです。「かなづらん」のよい響き。
都から伊勢、そして信濃の浅間山、美濃尾張を経て三河へ。旅の空での業平の胸中が察せられます。
本説の伊勢物語は歌物語。次第は、「から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ」の変奏?ですね。


結末  地謡
袖白妙の  卯の花の雪の
夜もしらしらと  明くる東雲の
あさむらさき(朝・浅紫)の  杜若の
花も悟りの  心ひらけて
すはや今こそ  草木国土
すはや今こそ  悉皆(シッカイ)成仏の
御法(ミノリ)を得てこそ  失せにけれ


袖は白妙、卯の花のような雪のような白さ
夜もしらしらと 明けて東雲の
朝となって うす紫の空のもとで 紫の杜若の
花も悟りの 心が開けて
まさに今こそ 草木国土
まさしく今は悉皆成仏の 経文どおりに成仏することができ
その姿は 消えてしまったのだ

(ひとこと)
能舞台でシテの衣装が紫だったり白だったりする理由がわかりました。
花か人か、女か男かの妖艶なイメージに「白」が入ることで爽やかな初夏の朝が出現。
「花も悟りの 心ひらけて」の悟りの心とは成仏のこと。花の縁語で「開けて」といいます。